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大阪高等裁判所 昭和63年(ネ)1142号 判決

控訴人(原告)

広田ショッピングセンター協同組合

右代表者代表理事

松木勲

右訴訟代理人弁護士

筧宗憲

高橋敬

被控訴人(被告)

岩永美津子

被控訴人(被告)

倉橋良男

被控訴人(被告)

河合章次

右三名訴訟代理人弁護士

足立昌昭

主文

1  原判決中主位的請求(会費等請求)に関する部分を取り消す。

2  控訴人の主位的請求を却下する。

3  控訴人の予備的請求(不当利得等請求)に関する部分についての控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

一  申立

1  控訴人

(一)  原判決を取り決す。

(二)  被控訴人岩永美津子は、控訴人に対し、金三一五万円及びこれに対する昭和六〇年一二月二八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被控訴人倉橋良男は、控訴人に対し、金一八三万円及びこれに対する昭和六〇年一二月二二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  被控訴人河合章次は、控訴人に対し、金三四八万円及びこれに対する昭和六〇年一二月二二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(五)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(六)  仮執行宣言

2  被控訴人ら

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

二  主張及び証拠

以下に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二枚目表一〇行目の「請求原因」の前に「主位的」を加え、裏一三行目の「結成」を「設立」に訂正し、同三枚目表一〇行目の「明らかにされた」を削除し、一一行目の「が行われ」を「を行うことが決議され」に、一二行目の「分のみでも」を「費用として」に、同行目の「要した」を「負担することになった」にそれぞれ訂正し、裏一行目の「五万円」の次に「を負担すること」を加える。

2  同四枚目裏九行目と一〇行目の間に次のとおり加える。

「二 被告らの本案前の抗弁

原告の主位的請求は、権利能力なき社団である商人会の被告らに対する会費等請求権につき、原告が商人会からその徴収を委託されたので、それを自己の名において請求するというものであるが、これはいわゆる任意的訴訟担当として許されないところであり、原告には右請求について当事者適格がないから、本訴は、不適法として却下されるべきである。

3  同四枚目裏一〇行目の「二 請求原因」を「三 主位的請求原因」に、同五枚目表二行目の「は争う」を「の事実は否認する」にそれぞれ訂正し、四行目末尾に次のとおり加える。

「商人会は、昭和五四年六月一四日に原告が設立されて商人会の設備・財産・事業内容を引き継いだことにより、事実上解散ないし解体消滅したものであり、仮に存続しているとしても、組織の実体を失い社団としての機能を停止するにいたったものである。したがって、商人会が被告らに対し会費等の請求権を取得するようなことはありえない。

4  同五枚目表九行目の「三 抗弁」から裏四行目末尾までを次のとおり訂正する。

「四 本案前の抗弁に対する答弁

原告は、本件会費等の徴収のほか商人会の一切の事業の執行を委託され、これを自己の業務として処理しているものであって、原告が自己の名において本訴を追行したからといって、弁護士代理の原則を潜脱するおそれはなく、信託法一一条の趣旨に反するものでもないから、原告は本訴請求について原告適格を有するというべきである。」

5  同五枚目裏五行目の「再抗弁」を「予備的請求原因」に訂正し、七行目の「請求原因」の前に「主位的」を加え、同行目の「金員」を「金額(被告岩永については三一五万円、被告倉橋については一八三万円、被告河合については三四八万円)」に、九行目の「得て来たものであり」を「得てきたものであるから」に、一〇行目の「支払」を「右と同額の金員の償還ないし返還」にそれぞれ訂正する。

6  同六枚目表八行目の「ことは」を「ことの」に訂正し、裏一二行目の「事務所」の前に「新聞代」を、同七枚目表一行目の「事務所」の前に「電話代」を、二行目の「慶弔費」の前に「慶弔費 」をそれぞれ加え、一一行目の「再抗弁」を「予備的請求原因」に訂正する。

理由

一主位的請求の適否について

原告の主位的請求は、権利能力なき社団である商人会の被告らに対する会費等請求権につき、同商人会からその徴収(取立)の委託を受けたことを理由に、原告の名においてこれを被告らに請求するというものであるが、第三者から金銭債務の取立の委託を受けたからといって、その金銭債務の履行を求める訴訟につき自己の名でこれを追行する当事者適格を有することになるものではないから、原告は本訴につき原告適格を欠くものといわなければならない。この点につき原告は、本件のようないわゆる任意的訴訟担当においては、弁護士代理の原則を回避し、または信託法一一条の制限を潜脱することになるおそれはないから、これを許容すべきであると主張するけれども、金銭債務の取立の委任を受けただけの者に一般的に任意的訴訟担当を許容するならば、弁護士代理の原則の回避と信託法一一条の制限潜脱のおそれが生ずることは否定することができないし、また、債権者みずからが自己の名で訴訟を追行すれば足りることであって、任意的訴訟担当を許容すべき合理的必要性も認められないから、原告の右主張は採用することができない。

そうすると、原判決中、原告が原告適格を有することを前提に本案(主位的請求の当否)について判断した部分は違法であるからこれを取消し、原告の主位的請求(会費等請求)を不適法として却下することとする。

二予備的請求について

仮りに原告が予備的請求原因1ないし13記載の費用を支出し、または設備等を設営しているとしても、それによって被告らが原告主張の金額に相当する利益を得たことを認めるに足りる証拠はないし、また、右費用の支出が被告らの事務の管理に当たることを首肯すべき根拠を見出すこともできない。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の予備的請求は理由がなく、原判決中原告の予備的請求を失当として棄却した部分は相当であってこの部分についての本件控訴は理由がないので、民訴法三八四条によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤原弘道 裁判官川勝隆之 裁判官中村隆次)

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